初めての水草アクアリウム

水草に必要な肥料

水草アクアリウムと「園芸」との違い

(水草アクアリウムも園芸に含まれるとは思いますが、以下では盆栽や、鉢植え、花壇など陸生植物を育てることを指して「園芸」という言葉を使います。)

「園芸」と水草アクアリウムの違いは何でしょうか? 水草も植物ですから、光合成によってエネルギーを得るという点は陸生植物と同じです。 肥料を与えないと健康に育たないという点も同じです。 両者の大きな違いは次の2点です。

  • コケの存在

    「園芸」と水草アクアリウムの大きな違いの1つは、水草アクアリウムにはコケ(藻類)という宿敵が存在するという点です。 コケも水草と同じように光合成をしますし、水草と同じものを栄養にして育ちます。 しかも、水草よりも下等な生物なので生命力が強く、水草よりも劣悪な環境で健やかに育ちますし、水草が育つ環境では水草以上に良く育つ傾向にあります。

    そのために、水草アクアリウムでは「園芸」以上に肥料の使用に対して節度が求められます。 「園芸」では肥料を与える際に、育てている植物のことだけを考えて肥料の用量や栄養バランスを決定すれば良いのですが、水草アクアリウムでは水草の健康よりも、まずコケを発生させないことを第一に考える必要があるというわけです。

    肥料が不足すると確かに多くの水草は綺麗に育ちませんが、水槽内にコケがはびこると、植物が綺麗に育たない以上にストレスの原因となります。 さらに、水草水槽には魚やエビなどの動物も入れるのが普通ですが、動物に与えるエサが巡り巡って水草(そしてコケも)にとっての栄養となります。

    したがって、水草水槽では、肥料の不足よりも与え過ぎに気を付けることが必要です。 そして、動物に与えるエサも肥料として機能するため、そもそも水槽内の肥料分がゼロではないということを認識して、「肥料を与えるのは植物にとっての栄養のバランスを整えるためだ」という意識を持つことが大切です。

  • 二酸化炭素の不足

    「園芸」と水草アクアリウムのもう1つの違いは、水草水槽では二酸化炭素が欠乏するという点です。 二酸化炭素は後述するように植物にとっての「ごはん」にあたりますが、植物を気中で育てる「園芸」では当然のようにいくらでも利用可能な二酸化炭素ですが、植物を水中で育てる水草水槽では不足します。

    動物にとって水中で不足するのは酸素ですが、植物にとっては酸素よりも二酸化炭素の不足のほうが問題となるのです。

    自然界と水槽内とでは、植物の量に対する水の量が圧倒的に異なります。 自然界にも水草が密生している場所はありますが、その美しい風景が維持されている背後には、水草がまったく生えていない膨大な地域(地下水脈を含めて)の存在があります。

    水草が生えていない水域において、大小様々な生物や地下の水圧の働きによって十分な量の二酸化炭素が水に溶け込み、そのように二酸化炭素がたっぷり溶け込んだ水が次から次へと水草が密生しているエリアに送り込まれてくるわけです。

    呼吸などの生物の働きを考慮せず、水面から自然に取り込まれる二酸化炭素の量だけを考えても、空気と接している水面の面積が膨大であって、常に新しい水が供給される自然界では、二酸化炭素の供給量は十分だと考えられます。

    これに対して水草水槽では、常に同じ水を循環させているだけである上に、水量や空気に接している水面の面積に対して、水草の量が不自然に多いと言えます。 このような水草水槽を自然の状態に近づけるには二酸化炭素の添加が不可欠なのです。 (設置から時間を経て枯れ草などの炭素源と炭素源を二酸化炭素に変換するバクテリアが十分に存在する水槽では、二酸化炭素を添加しなくても光量が十分であれば、光合成の気泡を確認できることがあります)

植物の主食

植物は「ごはん」にあたる主食を光合成により作り出します。 光合成に必要なのは@二酸化炭素、A水、そしてB光です。 肥料というのは、俗に「植物の三大栄養素」と言われる窒素、カリウム、リンでさえ、「おかず」のようなものです。

ですので、主食を作り出すのに必要な二酸化炭素や光が不十分となりがちな水槽環境で、これらが不十分なままに「おかず」にあたる肥料ばかりを与えても、水草は健康には育たずに、水草水槽の天敵である藻類の栄養となり、これがはびこる原因になります。

植物が必要とする栄養素

三大栄養素である窒素、カリウム、リンは植物の要求量が多いため、肥料として積極的に補給してやる必要があります。 ただし、水草に関しては、リンの必要量は三大栄養素と呼ぶのもおこがましいほどに少量です。

その次に必要な栄養素としては、カルシウム、マグネシウム、イオウなどがありますが、これらの必要量は桁違いに少なくなります。 上述のリンの必要量はこれらの栄養素と同水準で、カルシウム以下、マグネシウムと同程度です。

そして、カルシウムやマグネシウムよりもさらに必要量が少ないのが、微量必須元素と呼ばれる鉄やマンガン、ホウ素、亜鉛などです。 これらは水道水やエサに含まれる量で十分ので、意識して補給する必要はありません。



魚のエサ → 水草の肥料

エサを食べた魚が出す排泄物は水草の肥料になります。 しかし、魚の排泄物は、水草の肥料としてはバランスが取れていません。 与えるエサにもよりますが、魚の排泄物は、水草の肥料としてはリンが多過ぎ、カリウムが少な過ぎるのです。

水草の主要栄養素の必要比率は、窒素:カリウム:リン=1:0.5:0.1 です。 これに対して、人工飼料(魚肉50%、植物性たんぱく質50%の場合)に含まれる比率はおよそ、窒素:カリウム:リン=1:0.15:0.3となります。

したがって、水草の量に対して適切な量の魚を飼っており、その魚に適切な量のエサを与えていたとしても、エサから供給される栄養素が、カリウムでは必要量の1/3以下でしかなく、逆にリンでは必要量の3倍にもなってしまいます。

水草水槽に必要な肥料

上記から、理想的な栄養素の比率を達成するには、まず魚の数を1/3にし、それに応じてエサの量も1/3にすることでリンの供給量を適正に保ち、そのうえで不足する窒素とカリウムを肥料として補給するということになります

現実にはしかし、そのような計算は非常に困難です。 そして、水草は実際には、必要分以上の肥料を吸収するため肥料分が多少多くても問題はありませんし、定期的に水換えを行うことで水槽水のリンの濃度を減らすことができます。

しかしながら、魚の数を少なめにするのが、最終的にはリンの濃度を低く抑えることにつながるという認識くらいは常に持ち続けておくと良いでしょう。

なぜ、このようにリンばかりを敵視するのかを述べていませんでしたが、「園芸」と違って水草水槽では、過剰な栄養分が藻類の発生原因になります。 過剰なリンは特に、藻類の中でも最悪な藍藻の原因になると考えられています(詳しくは「「レッドフィールド・レイショー」を参照)。

窒素は脱窒と呼ばれるプロセスによって、硝酸塩から気体である窒素に変換されて水中から逃げてしまうことがありますが、リンはこのようなことが決してありません。 したがって、海水アクアリウムでもそうなのですが、最終的に問題になるのは常にリンの蓄積なのです。

水草用として販売されている肥料は、この辺のことを踏まえて作られているため、カリウムを多く含み、リンを含んでいないはずです。

リンをとことん無くすには

リンが大嫌いなので水槽内へのリンの供給を絶ちたいという場合には、魚を入れずにエサも与えないか、あるいはエサを与えずに済む程度の極少量の魚やエビのみを飼う(バランスド・アクアリウム)にすることになります。

魚も普通に飼いたいという場合には、ブラインシュリンプを利用してはどうでしょうか。 ブラインシュリンプは、窒素はほとんど含みませんが、カリウムとリンをおよそ10:1の割合で含んでいます。

また、入手が困難ですがミジンコも、リンをほとんど含みません。 窒素やカリウムをはじめとするその他の栄養素もほとんど含んでいませんが、鉄と亜鉛だけ他のエサと同程度に含んでいます。 乾燥ミジンコはエサとして売られているので、それを試してみてはいかがでしょうか。

<< 2.6. 二酸化炭素の添加 2.7.2 肥料の種類と使い方 >>